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天田敦子医師、学術奨励賞受賞


天田医師が2016年度茨城県医師会勤務医部会学術奨励賞を受賞しました。
その研究概要です。

「インジウム肺の臨床〜9年間の診療から学んだこと〜」

【研究の背景と課題】
液晶パネル等の生産に必要なレアメタルの一種インジウムは、1990年代以降その生産量が飛躍的に増加してきたが、インジウムを含んだ粒子の吸入によるヒトの肺への毒性は知られていなかった。インジウム加工に従事していた27歳男性が2001年に間質性肺炎と診断された事例を承け、2002年に私達は産業医として同症例の属していた工場においてインジウム加工労働者を対象とした呼吸器検診を行い、インジウム曝露量と肺障害(HRCT所見、血清KL-6、肺拡散能)との間に量・反応関係のある事を見出し、インジウム粒子の吸入が肺の気腫化を伴う間質性変化を生じ得ることを報告した(Eur Respir J 2007;29:317-324)。その後、工場と協力し作業環境改善に取り組みながら毎年インジウム作業者検診を行ってきたが、これらのデータを解析しインジウムによる肺障害の経年変化並びに作業環境改善の効果を検証するのが本研究の課題である。

【研究概要】
研究目的:インジウム(In)は主に液晶パネルの材料として用いられ、In化合物の生産量は1990年代以降急増し、その吸入により肺障害(間質性変化・気腫化)が生じることを私達は報告してきた。本研究の目的は、‘02年より毎年実施しているIn作業者を対象にした呼吸器検診の結果を解析しInによる肺障害の経年推移の特徴並びに作業環境改善の効果を明らかにすることである。

方法:‘02年〜‘10年までの9年間毎年検診を受けた84名の男性作業員を、’02年の血清In濃度(sIn)により4群に分け、呼吸器症状の有無、sIn、間質性肺炎のマーカーである血清KL-6、肺機能検査、胸部HRCTについて解析を行った。

結果:息切れのある者は‘02年にはいなかったが、‘10年には3名となった。作業環境の改善により、sInは9年間で幾何平均8.6(標準偏差4.2)から4.9(4.9)ng/mlに低下し、KL-6も448.0(2.1)から275.0(1.8)IU/mlへと低下した。離職者34名から得られたsIn半減期は8.09年(中央値)であった。HRCT上間質性変化は各群とも経年的に改善傾向を示したが、sInの最も高いグループ4においては‘06年以降下げ止まった。一方、気腫性変化はグループ4で経時的に悪化した。一秒率は全体で低下傾向を示し、低下度はグループ4で大きかった。

考察:9年間でIn加工室の作業環境濃度は1/100以下になり、sIn、KL-6は低下し、HRCT上間質性変化も改善したが、グループ4では経年的に気腫性変化が進行し、高曝露群では不可逆性の気腫化の生じる事が示唆された。これらの変化と喫煙率との関連は認められなかった。sInの半減期は長くInの肺胞から血液や気道を介したクリアランスには長期間を要すると推察される。

結論:作業環境改善により、sIn、間質性肺炎マーカーは低下し間質性陰影は部分的に改善するが、高度曝露群では気腫化の進行を招く。今後、作業環境中In濃度の更なる低減と検診による肺障害の早期発見が重要である。

【本研究の意義】
私達はインジウムを含む粒子の吸入によってひき起こされる新しいタイプの塵肺であるインジウム肺に遭遇した。そこで産業医であると同時に呼吸器専門医としての特色を生かし、毎年、インジウム加工に従事する作業者を対象とする呼吸器検診を実施して結果を解析し、既知の物質であるインジウムが産業界で新しい使われ方をされるようになった結果、新しい形の塵肺をひき起こすことを明らかにしてきた。これまでに症例報告やCross Sectional Studyについての報告を行ってきたが、本研究は同一コホートを9年連続で追跡した結果を解析したLongitudinal Studyで曝露量によって異なるインジウム肺の経年変化を明らかにした。

【最近5年間の研究論文および、学会発表】


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